GRA Japan chapter

Manu

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10プログラム

GRAは、下記に示す10個のプログラムが地域の院外心停止傷病者の社会復帰率の改善に大きく貢献すると考え、その推進を提唱しています。世界中の蘇生科学のリーダー達は、このプログラムの導入によって、あらゆる地域でも、多くの院外心停止に至った人を救えると確信しています。

10プログラムののもとになっている、「 10 steps for improving survival from sudden cardiac arrest」のテキストの日本語版

10プログラム

 「心停止に関するデータを登録・評価し、改善につなげる」、これがシアトルの蘇生アカデミーの信念(理念)の1つです。
心停止に関するデータを登録するシステム(心停止レジストリ)は、救急隊の様々な活動を評価し、我が国(その地域)の救急医療体制を評価する「物差し」にもなります。
心停止レジストリでは、単に心停止傷病者の生死を評価するのではなく、バイスタンダーCPRが行われたのか、口頭指導は行われたのか、CPR中断時間が長すぎたのではないか、気道確保は成功したのかなど、市民や救急隊が行った対応のプロセスを評価することができます。ゆえに全ての心停止傷病者を登録し、プロセスを評価するためにもこのレジストリを用いる必要があるのです。

通信指令員にとって、心停止を認識し通報者に対して口頭指導を行うことは、とても難しくストレスなことです。心停止が疑われる場合には口頭指導を行うことが必要ですが、継続した口頭指導のトレーニング無くして適切にそれが行われることはあり得ません。

シアトルの通信指令員は「心停止ではないと確証が得られるまでは、全ての通報を心停止と思え」と教育されています。通信指令員は電話をしてきた人に対して、(救助が必要な人に)「意識はありますか?」と「いつも通りの呼吸をしていますか?」の2つの質問を必ず行い、いずれも「なし」の場合はすぐ口頭指導をすることになっています。

通信指令員自身が、救命の連鎖においてどれほどの重要性を担っているのかを理解し、口頭指導によって救われた人を目の当たりにすると、通信指令員は心から口頭指導の重要性に納得できるようになります。

CPRの質はCPR開始までの時間と同様に、救命に関わる重要な因子です。質の高いCPR、つまりハイパフォーマンスCPRは、「CPRのダンス」「CPRのバレエ」「CPRのピットストップ」とも言われる、息のあったチームの行動により生み出されるパフォーマンスのことです。

F1レース中に行われるピットストップでは、レーシングカーがピットインし、メンバーは短時間にタイヤ交換や燃料補給などを無駄なく行います。このピットストップのように、救急隊員は心停止現場に到着するとすぐに正確に何をするべきかを把握し、最小限の時間と努力で無駄なく救命処置に挑みます。
継続的な質の改善の取り組みとして、心停止傷病者のたびにその対応に関わった人たちにフィードバックをすることが重要です。例えば、胸骨圧迫比やCPRの質を除細動器からダウンロードして、客観的なデータをチームにフィードバックをすることです。
GRAの活動目標は、病院前であっても病院内であっても、胸骨圧迫比(CCF)>90% 、胸骨圧迫のリズムは100-120回/分、5cm以上の胸骨圧迫と十分なリコイル、リズムチェック前の除細動器の事前充電、CPRの中断を10秒以内に抑えた気管挿管、CPRを止めない静脈路確保です。そしてこれらを達成するために、定期的に訓練を行うことが重要です。

救急隊が迅速に心停止の現場に到着することで、追加の人員配置や資源を要さずに救命率を5-10%高めることができます。生死にかかわる場面においては時間が勝負であり、決められた手順で手際よく現場に向かう必要があります。命に関わる通報と判断した場合は、たとえまだ通報者から情報を得ている途中であったとしても、現場に近い救急隊をすぐに向かわせる必要があります。
活動目標は、プロトコールが順守されているか定期的に確認すること、着信から30秒以内に迅速に救急隊が出動しているかを確認すること、通信指令員に定期的にフィードバックを行い、通報者から情報を聞き出すトレーニングを行うことです。

シアトルでは全ての心停止傷病者で、リズム、CPRの実施の様子を音声記録とともに秒単位で除細動器に記録しています。これらを統合して検証することで、現場での状況が明らかになり、救命処置が遅れた理由なども推測することが出来ます(例、犬が救急隊に向かって吠えていた、傷病者を浴室から移動させた、酸素ボンベが空だった)。除細動器内に記録されている胸骨圧迫、人工呼吸、心電図波形、電気ショックのタイミングのデータは有用ですが、音声記録はそれ以上に有用です。
活動目標は、心停止傷病者の除細動データと音声データの収集、それらを使用した振り返り、状況や救命処置の流れを詳細に言語化(文書化)し、タイムリーに救急隊にフィードバックを行うことです。

救急隊が到着するまでに実施される、市民によるAEDを用いた電気ショックは救命に大きく貢献します。日本でも市民によって目撃された心室細動傷病者のおよそ4〜5割が社会復帰しています。市民によるAEDをさらに強化するプログラムの導入は社会復帰率をさらに改善します。欧米では、警察官などが行うAEDの効果も示されており、心停止事例において警察官も同時に出動させるプログラムも試みられています。

心停止が発生した時に、スマートフォンを使って付近にいるボランティアに対し、心停止現場や最寄りのAEDを知らせるプログラムが、様々な国や地域で取り組まれています。救急隊よりも先に、心停止現場の最寄りにいるボランティアが現場に駆け付け心肺蘇生をおこなったり、設置されているAEDを使い電気ショックを実施したりすることで、救命率が高まることが期待されています。日本でも下記のような取り組みが行われています。

CPRの講習を地域の住民全員が受け、実施することができれば救命率を2倍にすることも可能です。しかし、現実的に地域住民全ての人にCPRの講習を行うことはとても困難です。ノルウェーや、ドイツではBLSの講習が学校教育の必須科目になっています。またアメリカの39の州においても、BLSの講習が高校を卒業する要件になっています。わが国では、学習指導要領が改定され、中学校、高等学校での実技を伴うCPR、AEDの教育が求められています。更に、小学校でも救命教育が広がりつつあります。高校卒業までに、また全ての公的機関の職員にBLS講習を広めていくことが必要です。

年間の救急活動報告書(年報)は、地域住民に対して自分たちの救急活動に対する説明責任を果たす最適な方法です。地域住民へ情報を共有することは、もし結果が良好であれば救急組織を地域住民にアピールできます。
活動目標は、内部向け、外部向けの年次報告書を作成することです。

これらの取り組みを行っていこうとする意識や文化を社会にひろく育てていくことが一番難しいことです。このような文化を育てるためには、組織の全ての人が志を高く行動すること、そして明確なビジョンを持ったリーダーが必要です。こうした文化を醸成できているかどうかを評価することは困難ですが、自己満足ではない、素晴らしいシステムの確立のためには不可欠です。誠実でビジョンに基づいたリーダーシップが発揮されている時、救急隊はこのような文化の育成に応え、組織が変わっていくと思います。