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はじめに

ウツタイン大阪プロジェクトの目標

 病院外心肺呼吸停止の蘇生率向上は、救急救命士制度における永遠の評価項目である。しかし蘇生率として表現された数字は,蘇生方法だけではなく、地域の特異性や病院前救護体制の違い、救急医療機関の応需など、多種の要因の複合的結果であるので、これを科学的に分析し比較・検討するには、一定の調査方法が必要である。
 1990年6月にノルウェーのウツタイン修道院で国際蘇生会議が開催され、同年12月に蘇生に関する国際的な比較検討を促進するためのガイドラインであるウツタイン様式(Utstein style)が定められ、以後世界的に使用されるようになった。
 大阪では1996年4月に北摂地区の病院前心肺呼吸停止の記録集計を行う目的で北摂CPA研究会が発足した。大阪府下の救急医療活動向上には、大阪府下全域を対象とすべきであり、ウツタイン様式による調査が妥当であろう。北摂CPA研究会を見本に、日本救急医学会近畿地方会である近畿救急医学研究会が中心となり、消防機関・医療機関・府医師会の協力の結果、大阪府民880万を網羅したウツタイン様式による前向き疫学調査が1998年5月から始まった。
 このプロジェクトの特徴は、行政主導ではなく、民間組織が有志を募って自発的に行ったものであり、諸機関が極めて協力的であったことだけではない。最も重要なことはデータのqualityが高いことである。
 ウツタイン様式を浸透させるために、アメリカ心臓協会の許可を得て「Recommend Guidelines for Uniform Reporting of DATA from Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The utstein Style. Circulation 84:960-975,1991」の日本語版「病院外心停止事例の記録を統一するための推奨ガイドライン:ウツタイン様式」をレールダル社および株式会社アイカの協力のもと発行し、対象機関のみならず全国の教育機関に配布した。また入力エラーを防ぐために、必要最低限の記載事項とし、記録内容に齟齬が生じない、かつ齟齬を発見しやすい記録用紙を作成し、改良に改良を重ねた。データの信憑性の保証は、入力時の消防機関によるチェックと、集積後の医師による全症例の見直しによって得られ、必要に応じて訂正と追跡調査を行った。これらの努力が、救急医療機関と消防機関の一体感を生み、病院前救護活動の改善につながった。 また医学的には、学会発表や学術論文として、高い評価を得ている。平成17年より総務省消防庁による全国レベルでウツタイン様式が導入されたが、ウツタイン大阪プロジェクトの活動が深く関与しているのは自明である。
 今後も,消防機関・医療機関・行政機関が一体となり,質の高いデータを集積し,科学的に分析・検討を行ことにより,救急業務の高度化とメディカルコントロール体制を育成し,蘇生率および社会復帰率の向上を目指していく。

ウツタイン修道院
委員長,大阪府立急性期・総合医療センター 救急診療科主任部長
池内 尚司