現在の「大阪府心肺蘇生効果検証委員会」の前身である「心肺蘇生に関する統計基準検討委員会(蘇生統計委員会)」が、1996年7月、近畿救急医学研究会(日本救急医学会近畿地方会)の―委員会として活動を開始した時、副委員長として本委員会に参加した。当時、「ウツタイン様式」という言葉は知っていたが、その目的や内容については詳しくは知らなかった。桂田先生、森田先生を補佐し、平出先生、池内先生等の多士済済のメンバーや大阪府下の消防機関の委員等とともに、「ウツタイン様式」について勉強し、時には白熱した議論になったことをなつかしく思い出す。
4年後の2000年7月に、思いがけず委員長に指名された。すでに、1998年5月より大阪府下全域における病院外心肺停止患者に対するデータ収集・予後調査(ウツタイン大阪プロジェクト)は開始されており、学会での発表も順調に増加していたが、本委員会活動をきっちりとした形にするには、報告書の作成が必要であった。膨大なデータの整理に時間がかかったことや私自身の怠慢により、報告書が完成したのは2004年11月であったが、各委員が分担し詳細にデータを解析した報告書は、200頁以上の大部となった。大阪府下のデータばかりでなく、和歌山県、奈良県のデータも収載することができた。報告書が完成した2004年末までには、多くの論文が国内外の一流雑誌に掲載され、ウツタイン大阪プロジェクトは本邦、さらに世界の心肺蘇生研究に重要な役割をはたしていると感じた。実際、ウツタイン大阪プロジェクトは、世界最大規模の病院外心肺停止に関する長期調査である。
2003年4月、総務省消防庁は「救急業務高度化推進検討会」を立ち上げ、ウツタイン様式の消防機関における導入について検討した。私も委員として参加し、ウツタイン大阪プロジェクトについて説明し、是非ウツタイン様式を全国の消防機関で実施するように意見を述べた。検討会でのウツタイン大阪プロジェクトに対する評価は高く、活発な討議が行われた。2005年1月、「ウツタイン様式」は全国消防機関で統一して導入されたが、これは世界初の画期的な試みである。今後日本から蘇生に関する多くのデータが、世界に向けて発信されることになると期待される。
全消防機関におけるウツタイン様式の導入は、本委員会を解散し、より公的な委員会として新たに出発すべき時期であることを示していた。2006年2月、第52回委員会をもって蘇生統計委員会は解散した。10年の間、実に約2か月に1回、3時間に及ぶ会議を開きつづけたことになる。新委員会(大阪府心肺蘇生効果検証委員会、委員長: 池内先生、小委員会委員長: 林先生)は、ウツタイン大阪プロジェクトのデータをすべての大阪府民が共有し、大阪府における救急医療の整備・推進、府民の健康増進に寄与するという目標を掲げてスタートした。
蘇生医療の向上はすべての医療の発展につながる。今後、ウツタイン大阪プロジェクトのますますの発展を祈念する次第である。
行岡 秀和